猫の安楽死は間違っているのか?処置方法や費用を解説

  • 猫を安楽死させてよいのだろうか?
  • どのような方法で安楽死させるのか?
  • どういうとき、安楽死を検討するべきか?
  • 安楽死は正しいことなのか?

このような疑問を持っている人は多いでしょう。

結論として、安楽死は、猫の容体や飼い主の状況によっては、法的にも許されています。

よってあえておだやかな死を選ぶ選択肢もあるわけです。病気の苦しみから逃れられる点を考えれば、それこそが飼い主のやさしさともいえるでしょう。

しかし近年では、安易な理由や誤った判断での安楽死が問題になっています。猫にとってどのような選択がベストなのか、今一度考えておかなければいけません。

本記事では猫の安楽死の処置方法や、検討するタイミングなどに関して解説します。ぜひ参考にしてください。

猫の安楽死とは?処置方法や費用を解説

まずは猫の安楽死がどういうものか、理解しておきましょう。ここでは以下の点を解説します。

  • 安楽死の処置方法
  • かかる費用
  • 安楽死が必要とされる理由
  • 殺処分と安楽死の違い
  • 安楽死はありかなしか?

まず、安楽死が具体的にどうおこなわれるのか知っておきましょう。そのあとで殺処分との違いや、安楽死の是非など、一歩踏み込んだテーマに関しても触れています。

安楽死の処置方法とかかる費用

猫の安楽死は、動物病院にて、多くの場合薬剤注射によっておこなわれます。たかつきユア動物病院では、以下のステップが採用されているようです。

(引用:たかつきユア動物病院

動画を掲載するのは控えますが、安楽死処置を受けた場合、猫はじつにおだやか最後を迎えます。麻酔を投与すると、まるで眠るかのように目を閉じます。

そして塩化カリウムを投与されてからも暴れることはありません。モニターから生体反応がなくなり、静かに生涯を終えます。

なお費用は動物病院によりますが、おおむね10,000円から30,000円前後と見て問題ありません。

安楽死が必要とされる理由

安楽死が必要とされる最大の理由は、「猫を苦しませずに済むから」です。

私たち人間は、大病を患った際、多くの苦痛がともなう闘病生活を強いられることがあります。その苦しみから逃れるために、根治ではなく残り少ない時間をおだやかに過ごす、「緩和ケア」を選択するケースも。

闘病生活が辛いのは、大病を患った猫も同様です。たとえば重度の気胸では呼吸困難や体力低下などにより、相応の苦痛を感じます。

このような苦痛がともない、また回復も見込めない場合に、安楽死が必要とされます。

また、飼い主の経済的・環境的要因から治療が困難な場合にも、安楽死が選択されることも。

殺処分との違い

混同されがちですが、殺処分と安楽死には大きな違いがあります。

殺処分とは、保健所や動物愛護センターが、何らかの事情で育てられなくなった猫を引き取って、ガス室で窒息死させることを指します。たとえば捨て猫など、人間の勝手な事情で放り出された猫が、処分されるケースが大半です。

また殺処分と安楽死の違いとして、「猫が感じる苦痛の大きさ」も挙げられます。安楽死の場合は、上述したように、苦しむことはほとんどありません。

一方で殺処分は窒息死であるため、息苦しさなどの苦痛を多分に感じます。

猫の苦痛をやわらげるための安楽死はもとより、望まない殺処分はなんとしても避けなければいけません。

関連記事▶︎犬猫の殺処分がなくならない理由と今の私たちにできること

安楽死はありかなしか?

「安楽死はありか、それともなしか」という議論は世界中でおこなわれていますが、やはり結論は出ていません。結局は飼い主や獣医の判断によって、安楽死するかどうか決めるのが自然でしょう。

なお安楽死を実施する側の獣医師を対象としたアンケートでは、以下のデータが報告されています。

(引用:PetLIVES-犬や猫の安楽死を考える~動物福祉や獣医療の専門家はどう捉えているのか?

ほとんどの獣医師が、安楽死を実施します。また「安楽死提案」も7割以上の獣医師によっておこなわれていました。一方で飼い主の都合による、つまり身勝手な安楽死に関しては、8割近い獣医師が応じないとしました。

この回答から、「苦痛から逃れるための安楽死」なら、一つの方法として受け止められていることがわかります。

なかには、「安楽死させることは特殊なことで、自分は残酷なのでは?」と思っている人もいるでしょう。しかし上記のデータに鑑みれば、そのように考える必要はなさそうです。

猫の苦痛はどのようにして測るのか?

猫が感じている苦痛は、学会などが制作したいくつかの「ペインスケール」を用いて測定されます。

(引用:CAPNo370 2020年4月号、ミル動物病院

これは猫の表情から、感じている苦痛を測定するためのスケールです。

耳が外側に向いていたり、目を細めていたりする状態は、人間でいう「しかめっ面」に該当します。この場合強い苦痛を感じていると判断されるわけですね。

獣医師はこのようなスケールを用いて、どれだけ苦しんでいるか、あるいは安楽死は必要かを判断しています。

飼い主本人も、こういった表情の変化を理解したうえで安楽死させるかどうか考えるとよいかもしれません。

猫の安楽死を検討すべきタイミング

どういうときに、猫の安楽死を検討すべきかわからないと考えている人は多いでしょう。もし考えるとすれば、以下のタイミングになりそうです。

  • 獣医師から提案を受けた
  • 「動物の5つの自由」が保証できない
  • 回復の見込みがない
  • 回復は見込みはあるが見ているのがつらい

獣医師の提案を受けた場合は、話をきちんと聞いたうえで、検討するのがよいでしょう。また「動物の5つの自由」との兼ね合いや、回復の可能性も関係します。

それぞれ詳しく解説するので参考にしてください。

獣医師の提案を受けた

まず獣医師から安楽死の提案を受けたなら、本格的に検討する必要があります。

獣医師は過去の経験や知識、あるいは先述した「ペインスケール」などを用いて、猫がどの程度の苦痛を感じているか理解しています。もちろん、回復の見込みがあるかどうかも正確にわかるでしょう。

その獣医師から「安楽死する方法もある」と提案されたなら、受け入れるのもひとつの選択です。

ただし「安楽死か、自宅で看取るか、闘病を続けるか」を決めるのは飼い主自身です。獣医師が決めるわけではありません。

家族と相談したうえで、ベストだと思える選択をしましょう。

一方で安楽死ではなく、根強く根治を目指す獣医師もいます。

そういった意見があるなら、安楽死でなく根治を目指すのもひとつです。

「動物の5つの自由」が保証できない

まず、「動物の5つの自由」が保証できなくなったタイミングが挙げられます。

動物の5つの自由とは、世界獣医学協会が基本方針として定める、「人間が動物に対して保証する必要がある『自由』」を指します。

  • 飢えと渇きからの自由
  • 不快からの自由
  • 痛み・障害・病気からの自由
  • 恐怖・抑圧からの自由
  • 正常な行動を表現する自由

つまり学会としては「ペットには、上記の自由を与えてあげる責任がありますよ」と主張したいわけですね。

その点を踏まえれば、闘病をとおして痛みや不快、恐怖を感じさせるなら、安楽死を検討するべきかもしれません。

ただし安楽死させることが、「抑圧からの自由」に反していると考える人もいます。このあたりは自身の価値観や獣医師の意見などを参考にして判断する必要があるでしょう。

回復の見込みがない

残念ながら回復の見込みがない場合も、安楽死を検討する必要があります。

病気が治って、また元気に暮らせるなら、苦しい闘病生活に挑む意味もあるでしょう。しかし、そうではない疾患を抱えているなら、苦しんだ末に最期を迎えることとなります。

飼い主の価値観や死生観にもよりますが、最期はおだやかに過ごしてほしい、と考える人も少なくありません。

ただし注意して絵欲しいのは、「安楽死しかないと思っていても、生還するケースもある点」です。

この猫はカラスに襲われ、一時は安楽死を提案されました。しかし1年後には立派な成猫になっています。

安楽死を選択する前に、回復する見込みは本当にないのか、よく考える必要がありそうです。

回復の見込みはあるが見ているのが辛い

回復の見込みはあるものの、それを見ているのが辛いから、安楽死を選択するケースもあります。

患った疾患によっては、回復を目指す治療は過酷を極めるものです。強烈な痛みに耐えたり、何度も吐き戻したり、毎日のように注射を打たれたり……こういった闘病を続けるのは、猫にとって大きなストレスです。

もちろん、それを見守る飼い主も相当に辛い思いをするでしょう。

だとしたら、飼い主と猫のことを考えて、安楽死する選択も十分にあり得ます。

猫が苦しむ姿を見て、心を痛める飼い主は大勢います。なかには飼い主のほうが、心を病んでしまうことも。

猫のことだけではなく自分自身のメンタルヘルスにも気を配る必要がありそうです。

猫の安楽死を考える際の注意点

猫の安楽死を考える際は、以下の点に注意しましょう。

  • 他の選択肢がないか考える
  • 獣医の指示をよく聞く
  • 家族間での意思を統一する

今回のお話は猫の命が主題になっています。安楽死させてしまったあとでは取り返しがつかず、とにかく慎重に考えなければいけません。

まず、安楽死を実行する前に、「他にもよい選択肢がないか」はよく考えましょう。また獣医の話をきちんと聞いたり、家族間で意思を統一するのも重要です。

それぞれ詳しく解説するので参考にしてください。

他の選択肢がないか考える

第一に考える必要があるのは、「安楽死以外の選択肢がないか、よく考えること」です。

獣医が推奨していたり、明らかに回復に見込みがなかったりするなら、安楽死もやむを得ないでしょう。

しかし、それしか方法がないとは限りません。たとえばセカンドオピニオンを聞き入れたり、医療設備が充実している動物医療センターで診てもらったりする方法もあります。老猫ホームに預けるなどのアイディアも。

また安楽死を検討している理由が経済的・環境的な理由であった場合、動物愛護団体に引き取ってもらうなどの方法もあります。

安楽死させてから他の方法の思いついたのでは手遅れです。処置をおこなう前に、他の方法がないか可能な限り検討しましょう。

関連記事▶︎猫を飼えなくなったときはどうすればよい?考えられる引き取り先一覧

獣医の指示をよく聞く

安楽死を検討する際は、獣医師の指示をよく聞くようにしましょう。

私たちは獣医学知っているわけでも、猫の気持ちや表情を手に取るようにわかるわけでもありません。だから、少ない情報で誤った判断を下してしまうことがあります。

一方で獣医師は、専門知識や診断経験を豊富に有しています。だから、安楽死するかどうかを考えるときに、獣医師の意見はとても参考になるでしょう。

自分自身が「辛そうには見えない」と思っていても、専門家から見れば「気の毒なほど苦しんでいる」というケースもあります。

そういった行き違いが起こらないように、獣医師の指示はよく聞きましょう。これは安楽死ではなく、自宅での見取りを選択する場合も同様です。

安楽死できない病院もある

多くの動物病院は、安楽死を一つの選択肢として念頭に入れています。しかし以下の理由から、「ウチでは安楽死させたくない」とする動物病院もあります。

(引用:子猫のへや

安楽死させることには、動物病院側にとっても大きなリスクがあるものです。特に獣医師本人に対する精神的負担は、察するに余りがあるでしょう。

また、飼い主の精神面を心配して、安楽死を避けたがるケースもあります。そのように進言してくれるなら、自宅での見取りを選択するのもひとつかもしれません。

家族間での意思を統一する

安楽死を選択する場合は、家族間で意思を統一しておくようにしましょう。そうでなければ、取り返しのつかないトラブルになるからです。

意思が統一されていないと、「私は反対だった」「勝手に殺した」などといった争いになるかもしれません。

子供の意思を尊重するのも重要です。勝手に安楽死させてしまったのでは、心の傷を負ったり、「ペットの命に対する責任」を軽く学んでしまったりするかもしれません。

最低限、同居する家族全員が同意する必要はあるでしょう。場合によっては親戚の意見も合わせておく必要もあります。

猫の安楽死に関するよくある質問

本記事では猫の安楽死に関して解説しました。ここではよくある質問に回答します。

  • 猫の安楽死は断られる?
  • 老猫の最後を看取る場合そうすればよい?
  • 死期が近い猫の特徴とは?

まず、よく質問に上がる「安楽死が断られるかどうか」という点に関して解説します。また自宅での見取る場合のことに関しても回答します。

猫の安楽死は断られる?

結論から言えば、猫の安楽死は断られる可能性があります

(引用:PetLIVES-犬や猫の安楽死を考える~動物福祉や獣医療の専門家はどう捉えているのか?

上図は先ほど掲載した「獣医師に対する安楽死に関するアンケート」の回答結果をまとめたグラフです。「飼い主の都合によるものなら応じない」とする獣医師が77.9%を占めているのがわかります。

つまり「誰のための安楽死なのか」によっては、断られることもあるでしょう。一方で「猫を苦しめたくない」という正当な理由による希望であれば、受け入れられそうです。

老猫や病気になった猫の最後を看取る場合そうすればよい?

安楽死ではなく、最後まで自宅で見守ることを選択する人もいます。この場合は介護をすることになります。

この点に関しては「老猫の介護はどうすればよい?トイレ・食事などすべてのケア方法を解説」にて解説しているので参考にしてください。

なお老猫の場合、以下のような認知症を発症することもあります。

この場合は通常の介護に加えて特殊な対応が必要です。その点も上記でURLで解説しています。

死期が近い猫の特徴とは?

死期が近い猫の特徴として、以下が挙げられます。

  • 口呼吸をする
  • ゴロゴロと音を立てる
  • 甘えてくるようになる
  • ご飯を食べなくなる
  • グルーミングしなくなる
  • 明らかに痩せる
  • 目の焦点が合わなくなる
  • 目つきが弱々しくなるetc.

目立ちやすいのが口呼吸です。猫の体調悪化は呼吸面に出やすく、わかりやすいサインとして現れます。

またご飯やグルーミングなど、本来なら好んでやりそうなことをやらないなら、死期が近いかもしれません。

この点に関しては猫が死ぬ直前にみせる兆候とは?お別れ前に知っておきたい最期の行動にて解説しているので、参考にしてください。

まとめ

本記事では猫の安楽死に関して解説しました。最後の重要なポイントをおさらいしましょう。

  • 日本では、猫の安楽死が認められている
  • 動物病院などで、薬剤注射によって安楽死の処置がおこなわれる
  • 費用は10,000円から30,000円ほど、決して高くはない
  • 安楽死がよいか悪いかは人それぞれ、獣医と飼い主が相談したうえで決めるのが自然
  • 安楽死は、動物の専門家である獣医師から提案を受けたら検討するべき
  • そのほか、回復が見込めない、あっても闘病を見ているのが辛いなら、安楽死を選ぶのもひとつ
  • 一度安楽死させてしまうと取り返しがつかないため、他の選択肢があるかないかは、よく検討するべき
  • 家族内で意思を統一しておくのも重要

大病を患った猫を安楽死で眠らせるか、あるいは根治を目指すか、それとも自宅で緩和ケアするか、本当にむずかしい問題です。

私たちねこほーむでも、職員同士でこの問題に関して議論したとき、十人十色の意見が聞かれます。やはり最終的には、獣医師と飼い主が相談して、猫にとってベストと思える選択肢を選ぶのがよいでしょう。

ちなみに「経済的・環境的理由から、安楽死せざるを得ない」とするケースも、ごくまれに見かけます。しかしそういった場合では、私たちねこほーむのような動物愛護団体での引き取りが可能かもしれません。

ぜひ一度、わたしたちにご相談ください。

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